かえるの子

どこにでもあるくだらない話だ。
私の小学卒業を待って、母親は家を出た。
母に対する感情がなんなのかわからないまま、
中学一年生の夏、私は登校拒否となって
母を忘れられぬ父親から逃げるように祖母の家に居候をはじめた。
知らないうちに私は母に連れ戻され、
母親のアパートの一室に部屋を与えられて
もぐらのように生きていた。
母の携帯を盗み見た。母は違う男を愛していた。
そうしてようやく母への感情に名前をつけることができた。
「捨てられた」のだと思った。
母は私たち兄弟を愛していたし、
女手一つで十分に、十分に育ててくれたと思う。
でも就職してお金がたまったとき、そこには母への感謝より先に
ようやく逃げられる。
関わらないですむとそう思ってしまう自分がいた。

就職直後母の家には母の恋人が住み着いた。
下の兄弟がどう思ったかは知らないけれど
説明もなしにあがりこんだ男は
どうしようもなく家に馴染んでいたし
どうしようもなくいい奴だった。
私はただ知らない男が説明もなしに
家にいる居心地の悪さに毎晩彼氏とどこかへ出かけた。
(後にこれがかなりの彼氏の負担になっていたことを知った)
でももう母親のことをどこかで私は許していた。
むしろ介護要員が出来た事でひどく安堵した。
私の彼氏に間違われるくらい若い母の恋人に
私は全てを押し付けることにして家を出た。
下の兄弟への罪悪感だけが残った。

その年の秋精神的に参った私は敬老の日に祖母の家に帰省した。
祖母の隣に布団を敷いて見慣れた天井を眺めていたら
祖母がぽつり、と私の父親の話をし始めた。
父も、浮気していた。とある看護師と婚前から浮気していた。
でももうなにも思わなかった。
ただ祖母が不憫でしょうがなかった。

私はそういう性的にだらしがない母にも父にも
もうなにも嫌悪感を感じない。
それはもう、私だって同じことしているからだ。
女性を売って金銭を手に入れたり、
どうでもいい男とセックスしてみたりして
それなりにそういうだらしなさを体験して
大人はひどく弱い物だって気づいたからだ。
そういうことをしないですむ生き方だってあるけれど
弱くて脳足りんにはそうすることでしかどうしようもなかったのだ。

あと二年で私は母が私を産んだ歳になる。
きっと私は一生子供を作らない。